バルセロナの6月は音楽フェスの季節 Primavera Sound、Sónar Barcelonaレポート

Toshinao Ruike氏によるバルセロナのフェスレポート

「Primavera Sound」、「Sónar Barcelona」、「Cruïlla Barcelona」など、6月のバルセロナは数万人規模の音楽フェスが毎週のように開催される。今年で23回目を迎えた世界を代表するエレクトロニック・ミュージックのフェスティバル「Sónar」はかつて日本でも数回開催されていたので、日本でのSónarを記憶している方もいるだろう。旬のアーティストからレジェンドまで豪華なラインナップに加え、バルセロナの恵まれた天候、市内の交通の便の良さなどにより、若者だけでなく家族連れを含む幅広い観客層に支持されている。

Primavera Sound Review

Photo : Toshinao Ruike

「Primavera Sound」の会場Parc Del Forum。近くにあるショッピングセンターの一角ではフェスティバルの常連たちが集まっていた。イギリス、ポルトガル、ドイツ、そしてスペインと各地のロックファンたちが年に一度Primaveraのためにバルセロナを訪れる。交流はフェス当日だけではない。FacebookやCouch Surfingなどを活用して、彼らは数か月前から注目の出演アーティストやチケット情報、宿泊先などの情報が交換されている。日本ではまだあまり知られていないPrimavera Sound Festivalだが、今年はRed Bull TVで中継されるなど、国際的に注目が集まっている。

The Avalanches @Primavera Sound

16年ぶりに活動を再開したThe Avalanches。復活第一回のライブはここバルセロナ。メンバーの一人がパスポートを紛失して入国できなくなるというトラブルに見舞われたものの、残り2名のメンバーで行ったサンプル主体のパフォーマンスは16年前と変わらず。最終日のDJセットでは、観客が大勢ステージにあがってメンバーと一緒に踊っていた。仕事が甘いスペインらしいが、セキュリティ達がすっかり仕事を忘れていたようで、5分ほど調子に乗った観客にステージが占拠されていた。

Peaches @Primavera Sound

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Photo : Primavera Official

Peachesのライブは、タブー視されてしまいがちな性に関係した表現がむき出しだ。ダンサーは女性器を模した着ぐるみで踊り、股間にシャンパンの瓶を挟んでステージから噴出させ、さらにそのシャンパンをオーディエンスの口に注ぐ。オーディエンスは喜んで踏みつけられながら、彼女を会場中央まで運ぶ。面白い、きわどい、楽しい、そういったセックスという行為が持つ側面を表現として堂々と取り上げ、美醜を越えて生々しくもなるが、わいせつか、芸術か、そんな線引きも無意味に思えるほど、突き抜けた素晴らしいショーだった。個人的には子どもに見せても構わないと思うほどだったが、性を公の場からできるだけ包み隠そうとする日本でこういったパフォーマンスを行ったら問題になるのだろうか、ショーを観ながらもそういう懸念が頭をよぎった。

Sigur Rós @Primavera Sound

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Photo : Primavera Official


Sigur Rósによるアイスランドの自然のダイナミズムを思わせる演奏に合わせた壮大なヴィジュアル。半透明のアミッド・スクリーンと格子状のフレームへのプロジェクションを行う演出はロック系のフェスティバルで目にすることがまだ少ない。Jonsiのボーカルは息継ぎをせずに、気が遠のくくらい長く歌い続ける。一体いつまで続くのかと、19万人を収容する人でいっぱいの会場が静まり返った。

Sónar Barcelona Review

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そして「Primavera Sound」の翌々週は「Sónar Barcelona」。こちらも同様に青空が広がっているが、エレクトロニックミュージックの祭典で、より享楽的でリラックスした雰囲気だ。青空の下、必ずしもステージに張り付いているわけではなく、音楽を聴きながら半裸になって日光浴をしている人もいれば、テーブル・フットボールに興じている人もいる。夜でも気温があまり下がらない地中海性気候だが、6月はまだ暑さもほどほどで、各々のスタイルでフェスを楽しむには最高のコンディションなのだ。

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公式発表では半数程度がスペインから来ているということだったが、周りで話されている言語を聞く限りでは他国の人の割合が7、8割というところだろうか。「Sónar Barcelona」は大げさに言えばサッカーのヨーロピアン・チャンピョンシップの音楽版のようで、国を越えて愛されているイベントだ。

Sónar by Day

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Photo : Toshinao Ruike


会場ではリストバンドに付いたICチップが活用され、ビール一杯から支払いはすべてキャッシュレスで決済が行われている。同じチップでフェスティバル各所の入退場管理も行われていた。フェスティバル運営に数万人規模のビッグデータが利用される時代が到来したことがわかる。

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Photo : Toshinao Ruike


また会場の一角には簡易的な研究室のようなスペースが設置されていた。ここではボランティアによって、来場者によって持ち込まれた薬物の成分が分析され、その結果のデータが提供されている。合法・非合法に関わらず、第三者から提供された危険なドラッグによる事故を防ぐため、このような措置が取られている。

Sónar+D @Sónar by Day

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Sónarはクリエイティビティとテクノロジーとビジネスを結びつけることを標榜しており、ライブやコンサートだけではなくテクノロジーの展示や実演、カンファレンスなどを行う「Sónar+D」のスペースが設けられている。今年の基調講演はBrian Eno。イギリスがEU離脱決定する国民投票の前だったが、何事も経済に結び付けてしまう現代社会のあり様についての問題提起、そしてそういった状況下でも音楽を作り続けることは強くアピールしていかなければいけないというメッセージを含んだ内容だった。
他のカンファレンスでは欧州原子核研究機構(CERN)を始めとした各種科学研究施設をアーティストレジデンスでどのように活用するかというトピックについて話し合われていた。施設自体が砂漠や山の中など、特殊な場所に位置していることが多く、そういった環境ならではのユニークな創作活動を行うプロジェクトが始まっている。

Red Bull Music Academy @Sónar by Day

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Photo : Red Bull Content Pool


「Sónar Barcelona」には毎年Red Bull Music Academyのステージがあり、受講した生徒やレクチャーを行った講師たちが発表を行う場でもある。上の画像はプロデューサーPulsinger&Irlのセット。RBMAのステージは大型フェスで演奏することが初めてのアーティストが立つこともあるし、各界の代表的なアーティストがお手本のようなステージを披露する(数年前だったが、時折マイクで説明のMCを交えながらUKレゲエの歴史を網羅するようなセットを行ったDJもいた。)特に誰を見るというわけでもなく立ち寄ると、思わぬよい拾い物をしたような気持ちになれるアーティストを見つけられるそういうステージだ。

Jean-Michel Jarre @Sónar by Night

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Photo : Sónar Official


Jean-Michel Jarreの壮大なステージ。音と光によるスペクタクルだけではなく、アメリカ政府の諜報活動の実態を暴露したことで知られる元CIAのEdword Snowdenと行った会話をサンプリングした作品を今回このSónarで初披露した。Sónarは毎年のように著名なアーティストによって反原発、独立問題など政治や経済に関わるメッセージ性を持ったパフォーマンスもよく行われる。

Soichi Terada @Sónar by Night

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Photo : Sónar Official


最近ハウスの方面で再評価されている寺田創一のセットは、手を横に突き出したり、飛び跳ねたり、祈るように手を合わせたり、型にはまったDJのパフォーマンスではない。彼の長いキャリアがそうであったように、特にハウスだけにこだわるわけでなく、彼の音楽的な引出しの中から、とにかく何か踊れるような構成でステージを作ろうとしていたようだった。同じステージの次の出番を待っていたKerri Chandlerがラストで登場し、大いに盛り上がった。

New Order @Sónar by Night

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Photo : Sónar Official


New Orderはアンコールで自らJoy Divisionへのトリビュートを行っていた。若くして亡くなったフロントマンIan Curtisの跡を継ぐ形で、New Orderを30年以上続けて音楽的な功績を残してきた今だからあえて行えたトリビュートではないかと感じた。

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Sónarの夜は更けていく。最終日は朝方の8時ぐらいまで続き、へとへとになりながらも高揚感に包まれて、朝日を浴びながら家路に就く。音楽を楽しむには、暑すぎても寒すぎてもいけない。バルセロナの6月はそういった意味で早い夏休みを楽しむための最適な場所と時期で、今回紹介した「Primavera Sound」や「Sónar Barcelona」などは、ロックからエレクトロニック・ミュージックまで一度に様々なアーティストのライブを体験できる。6月のバルセロナはジャンルや好悪を超えて様々な生の音楽の現場を体験できるフェスティバルの季節なのだ。

Text:Toshinao Ruike Festival Junkie
Festival Junkie Photo:Ai Matsuura

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